社会人が自らの成長を実現するものの手段に自己啓発があります。
今回は自己啓発はどのようなものがあるのか、そして自己啓発の現状を見ていきたいと思います。
そもそも自己啓発とは?
そもそも自己啓発とはどのようなものを指すのでしょうか。
このブログでも度々紹介している厚生労働省の令和元年度「能力開発基本調査」では以下のように定義されています。
自己啓発
労働者が職業生活を継続するために行う、職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるための活動をいう(職業に関係ない趣味、娯楽、スポーツ健康増進等のためのものは含まない。)。
とあります。やはり「自発的に」という点がポイントでしょう。勤め先の企業の指示のもと行うようなものは含まれないことになります。(支援などはあったりしますが)
一方でネット上では「自己啓発」=「自分磨き」という広義の意味で用いるケースも多いみたいです。
本記事では厚生労働省の方を採用します。
自己啓発にはどのような種類があるの?
一言に自己啓発といっても種類・手法は様々です。
代表的には以下のようなものがあります。
- 資格取得
- 外部の教育機関(スクール通学、通信教育など)
- 各種セミナー、ワークショップ
- 副業(複業)
- 書籍などで独学
①資格取得
国家資格や民間資格などの取得を通じて成長を実現する方法です。
実際に知識・技能が身につくだけではなく、目に見える形で証明できるのが良いですよね。
因みに今私はITパスポートの資格の取得を目指して勉強しています。
以下のサイトに受験者数の多い資格が載っています。参考までに見てみて下さい。
②外部の教育機関
外部の教育機関に通いながら成長を実現する方法です。
大学院やMBAなど本格的なものから通信教育や資格取得の専門予備校など手軽なものまで幅広くあります。こちらも知識・技能の習得だけではなく修了証明など目に見える形で示すことができる点が良いと思います。内容もかなり専門的なものを取り扱うことが多いので、大きなステップアップとなります。
一方で他の方法に比べて費用が掛かる上に、費やす時間もかなり長くなります。得られるものが大きい一方で必要とするリソースも多くなります。自分の家計・空き時間を鑑みて判断する必要があります。
③各種セミナー、ワークショップ
セミナーやワークショップへの参加を通じて成長を実現する方法です。
セミナーには無料のものもあれば有料のものもあり、実施期間も様々です。
中には企業の内部で社員が自発的に行っているケースやオフ会のようにで誰でも参加できる形式で開催するケースもあります。基本的には短期間のものが多く、技能を習得するというよりは知識の共有やトレンドの把握が目的になることが多いようです。他者に具体的な成果として見せることができないのは短所の一つでしょう。
④副業
本業とは別の仕事を通じて成長を実現する方法です。
本業と同じような仕事内容だと得られる効果は小さいので近い領域の内、成長が見込める領域の仕事を選ぶのがベターでしょう。収入が得られる上に、いざ本業が伸び悩んだとしても市場の成長が著しい副業の領域にシフトしていくことができるので、リスクを分散することにもなります。
企業によっては副業が禁止されているケースもあるので就業規則を確認しましょう。
⑤書籍などで独学
自己啓発の中では最も手軽な方法です。
書籍では資格や教育機関とは違って自分の興味・関心・方針に合わせて勉強することができるので柔軟に成長を図ることができます。また基本は自分一人でやるものなので好きな時間にできることも長所です。
ただし、実際に技能・知識が身についたかを確認する術はなく、証明することもできないので、効果は不確実です。
企業視点から見る自己啓発の現状
ここからは企業の視点から自己啓発の現状を探っていきます。
資料は先ほど紹介した厚生労働省の令和元年度「能力開発基本調査」から引用します。
自己啓発支援に支出した企業の割合
上図は自己啓発支援に支出した企業割合の推移です。近年は微増傾向にありますが、30%弱にとどまっています。
自己啓発支援費用の労働者一人当たり平均額
次に見るのは自己啓発に支出した費用の労働者一人当たりの平均額です。元来一人当たりの支出額は低く、近年は更に低下傾向にあります。支出する企業の割合は微増傾向にありましたが、一人当たりの金額は減少傾向にあるようです。また支出額も平均で0.3万円となっており、できることは限られてしまっています。
自己啓発支援を実施する事業所の比率
先ほどは「費用支出」した企業の割合を載せましたが、今度は支出を伴わない支援も含めた割合を見ていきます。先ほどよりも比率が高まり正社員に関しては80%強と高くなっています。一方で正社員以外には60%弱にとどまるなど正社員と非正社員の間に差がみられます。推移をみると人手不足感を反映してか平成24年以降増加傾向にあります。
自己啓発支援の内訳
具体的にどの様な支援をしているのかを見ていきます。セミナーなどの「受講料などの金銭的支援」が最も多く、80%に上っています。次いで「教育訓練機関、通信教育等に関する情報提供」「就業時間の配慮」など支出を伴わない支援が続きます。また社内の勉強会への援助など企業内部の自己啓発活動への支援も見られます。
社員個人の視点から見る自己啓発の現状
ここからは社員個人の視点から自己啓発の現状を見ていきます。
自己啓発を行った社員の特徴
まずどのような人が自己啓発に取り組んでいるのかを見ていきます。
【総数】を見ると労働者全体では約30%の人が自己啓発に取り組んでいます。また正社員が40%近いのに対して正社員以外では13%にとどまるなど両者の間に大きな差がみられます。先ほどの企業による支援格差なども影響しているかもしれません。
【性別】を見ると女性に比べて男性の方が自己啓発に取り組む比率が高いことが分かります。男女間の正社員比率の差も関係している可能性があります。
【最終学歴】を見ると専門性が高まるにつれて自己啓発に取り組む比率が高まっています。高い専門性が要求される職では常に最新のトレンドを追う必要があることを考えれば当然ともいえます。
【年齢階級】を見ると20代30代の働き盛りかつ非管理職の年代が熱心に取り組んでいることが分かります。年次が高い場合でも取り組んでいる社員はいますが、部下を抱えるにつれて「自分の教育」だけでなく「他人の教育」にも気を配る必要があるので自分の成長に割ける時間は少ないのかもしれません。
産業・規模別の取り組み度合
【産業】別にみると情報通信業、金融・保険業、学術研究・専門・技術サービス業、など高い専門性が求められ、トレンドの変化が激しい産業で自己啓発に取り組む人が多いようです。
【企業規模】別にみると正社員に関しては企業規模が大きくなるほど自己啓発に取り組む人の割合は増えるようです。一方で非正社員は企業規模によらず大きな違いは見られません。
自己啓発の実施方法
次にどのように自己啓発を実践しているのかを見ていきます。一番多いのは「ラジオ、テレビ、専門書等による自学・自習」でいわゆる独学に分類されるものです。私が日々実践しているラジオ英会話などもこれに分類されるでしょう。そして「eラーニング」「(社内の)勉強会・研究会への参加」「(社外の)勉強会・研究会への参加」と続いていきます。やはり日々労働にいそしむ中で手軽に取り組むことができるものが上位に来ています。一方で専門学校や高専、大学院での講座受講などある程度時間を要するものに関しては働きながら取り組むのは難しいようで2%程度にとどまっています。
自己啓発の実施時間
次に自己啓発に費やした平均時間を見ていきましょう。
【総数】を見ると自己啓発を行った割合と同様に正社員の方が平均時間が長くなっています。
【性別】では男女間で大きな差は見られませんが、男性の方が長い傾向があるようです。
【最終学歴】では専門性が高まるにつれて費やす時間が長くなります。
【年齢階級】では20歳以上は大きな差は見られませんが、20歳未満は特別高くなっています。今回は標本の詳細が開示されていないので理由は不明です。(理由のわかる人はご教授ください。)
自己啓発の自己負担金額
続いて自己啓発の自己負担費用を見ていきます。こうしてみると全体として全く支出しないという人がかなりいることが分かります。ただインターネットの普及により具体的な支出を伴わなくとも自己啓発に取り組む環境があるので、「支出していない」=「自己啓発に取り組んでいない」ということはできないと思います。
属性別の平均自己負担費用
【性別】でみると平均時間とは反対に女性の方が支出する金額が多いようです。
【最終学歴】では大学院(文系)が特別に高くなっています。理由は不明ですが、大学院まで進んで自己啓発の重要性を認識しているが周囲の理解が得られず自ら支出するしかないという可能性があるのではないかと考えています。(こちらも明確に理由をご存じの方はTwitterでご教授ください。)
【年齢階級】でみると30代の支出額が多いようです。働き盛りで自己啓発の重要性を認識しており、かつ収入も増えてきた年代であることが理由だと考えられます。20代は収入の関係で取り組もうにも大きな支出はできない状況があるのかもしれません。
自己啓発で補助を受けた割合
続いては自己啓発の補助を受けた割合です。ここでは性別・学歴・年齢にかかわらず40%~50%と差が見られません。強いて言えば正社員・非正社員の雇用形態の違いで10%ほどの差が見られます。
自己負担の平均補助金額
一方で補助を受けることができる金額には差が見られます。
【総数】では雇用形態により20千円以上の差が見られるなど大きな差があります。
【性別】でも男性の方が10千円ほど高くなっています。
【学歴】では基本的には専門性が高くなるにつれて金額は増えますが大学院(文系)が特に少なくなっています。集計前のデータがないので理由は不明ですが、先ほど言及したように高い専門性を持ち自己啓発の必要性を強く認識しているにもかかわらず、周囲の理解が得られず支出をしてもらえないという状況が考えられます。そうなると自ら支出するしかないですよね。確かに理系の専門科目は目に見えて効果が表れますが、文系の専門科目は効果が見えにくく支援をしてもらえないという状況があっても不思議ではありません。
【年齢階級】でみると20代が最も多く、年次を経るにあたって減少していきます。育成対象の若い世代に対しては多く支出する傾向があるようです。
自己啓発に取り組む理由
ではなぜ自己啓発に取り組もうと考えたのでしょうか。
一番多いのは「仕事に必要な知識・能力を身に着けるため」で、次いで「将来の仕事やキャリアアップに備えて」が多くなっています。ここら辺はイメージ通りの理由が多いようです。
ここで興味深いのは雇用形態の違いです。私の前回の記事(どうすれば賃金が上がるのか【教育①】)で取り扱ったように企業は正社員に対しては将来会社を引っ張り利益を生み出すことを期待し、非正社員に対しては効率的にオペレーションを維持することを期待している現状があります。このアンケートにも「将来の仕事やキャリアアップに備えて」「昇進・昇給に備えて」の比率の差にも表れています。また「退職後に備えるため」の比率は非正社員の方が高いなど厳しい立場に置かれている現状が垣間見えます。
自己啓発で抱える問題点
最後に自己啓発で抱える問題点を見ていきます。
やはり一番多いのは「仕事が忙しく余裕がない」で、次いで「費用がかかりすぎる」が来ます。時間や資金といったリソースの不足が大きな原因なようです。一方で「どのような自己啓発が自分のキャリアに適しているか分からない」や「目指すキャリアが分からない」など自己啓発の取り組み方やキャリアについて不明確な点が多く取り組みにくいという現状があるようです。これまで日本は終身雇用制の元で社員は組織に乗っかっていれば成長できる仕組みがありました。しかし終身雇用制が終わりを迎え転職が一般化した今、組織が成長させてくれるという状況は少なくなりつつあります。多くの人は自分自身を教育する方法が分からないという現状があり、自分を磨く方法自体をいかに知るかというのが今後の課題になるようです。
自己啓発で抱える問題点(正社員男女別)
正社員に限定して男女別にみていきます。
特徴的なのは「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」の男女間の差です。女性の社会進出が進んだとは言え、家庭内の役割分担はあまり進んでいないようです。
終わりに
今回の記事を通じて強く感じたのは企業が面倒を見てくれるという仕組みは終わりつつあるということです。転職が一般的になり人材への投資の効果が薄まりつつある今、企業はOJT、OFF-JTはまだしも自己啓発まで面倒をみるインセンティブは無くなっています。
ただこれは悪いことだとは私は思いません。企業としては仕方のないことだと思います。
これから大切になってくるのは(今までも大切なのでしょうが)自分自身で自分を教育すること、そしてそれにあたって自分自身を教育する方法を知ることです。方向性を主体的に決め、時間・資金も自らが捻出するのが基本的なスタンスとなり、自分のキャリアを自分で決めることが求められます。
あくまでこれは私のお願いになりますが、企業には適正な評価に基づいて然るべき賃金を支払うこと、効率化に勤め労働時間を短縮することに取り組んで頂きたいと思います。
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