前回に引き続き、社員教育の現状を分析していきたいと思います。
特に今回は企業が誰に対してどの様な能力開発を行っているのかを見た後、能力開発において企業がどのような課題を抱えているのかを見ていきます。。
データに関しては前回同様に厚生労働省の令和元年度「能力開発基本調査」を利用したいと思います。
企業は誰に対してどのような能力開発をするのか
上図はOFF-JTとOJTを実施した事業所の割合です。
OFF-JTに関しては正社員が高く、正社員以外の比率が低い。OJTに関しては役職の階級が上がるにつれて実施する比率が低くなります。これは前回の内容をみても納得がいくと思います。企業は正社員に対しては会社を引っ張りつつ利益を生み出す能力を備えてほしいと考える傾向が強いことを確認しました。逆に言うと既に多くの経験を積んで、現在組織を引っ張っている社員に対して能力開発をする必要性は低下するはずです。OFF-JTやOJTに時間を費やすよりかは利益を生み出すことに集中してもらいたいというのが本音でしょう。
日本でも転職がより浸透しつつありますが、企業には依然として新卒から将来会社を引っ張るようなリーダーを育てたいという思いがあるようです。
次にどのような能力開発を行ったのかを見ていきます。
やはり新入社員や中堅社員・管理職になりたての社員など新しいステージに上がった社員を対象とした研修などが多いようです。それ以外ですと、やはり前回の能力開発の目的にもあったように集団をうまくまとめるマネジメントスキルを高めるようなものが多いようです。一方で「職種に特有のスキル」や「課題解決スキル」につながるものはあまり多くなく、おそらく普段の業務の中で培う(OJT)べきものであるという考えが強いようです。
人材育成・能力開発について企業はどんな問題を抱えているのか
ここまで企業が行っている人材育成・能力開発を整理してきました。
「一人当たりの能力開発支出額が少ない」、「雇用形態・階級によって能力開発の待遇に差がある」、「マネジメントスキルなどに限定されている傾向がある」という話題を聞くと、「企業は人材育成のために支出して能力開発の機会を手厚くするべきだ」という意見が上がるかもしれません。
しかし多くの企業は人材育成・能力開発について色々な課題を抱えています。
近年は人材育成に問題を抱えている事業所が増加傾向にあります。理由は以下の通り。
「指導する人材が不足している」
この理由は少し意外でしたが、考えてみれば当たり前です。当然ですが指導する人材は対象の業界にも詳しく十分に経験を積んでいる必要があります。しかしそうした人材は利益に直結する社員でもあり、指導よりも実務に集中して欲しいと考える企業がほとんどでしょう。またそうした指導員を外部から探してくるのもかなり骨が折れると思います。
「人材育成しても辞めてしまう」
個人的にはこれはかなり大きいと思います。企業側からしてみれば「人材育成に力を入れろ!ただ好きな時に転職できる風土も作れ!」というのは横暴に思えます。自社で手塩にかけて育成した社員が転職・退職すると、人材への投資が水泡に帰するどころか競合他社の利益の源泉になってしまう可能性すらあるのです。そうなると育成に二の足を踏むのもわかる気がします。
賃金を上げて流出を防げば良いという考えもあるとは思いますが、以前の記事でも書いた通り経営者は短期利益を出すことが求められています。そのためになるべく人件費を抑えながら利益を出したいと考えた時にやはり賃金を上げるというチョイスはしにくいでしょう。(賃金は強い下方硬直性を持ち、一度上げると下げにくく、永続的にコストを増やしてしまうことになる。)
「人材育成を行う時間がない」
この理由も大きいでしょう。育成に際して指導する社員と指導を受ける社員を合わせると、多くの社員の貴重な時間が拘束されます。指導によって生産性が向上し利益が上がることはありますが、タイムラグがある上に効果は不確実です。であれば特別な育成はせずに仕事をしながら少しずつ成長していってほしいと考えるのは自然です。
以上のように育成するには人も時間も足りない上、成果は不確実で短期的に利益にはつながらない。最悪の場合には他社の利益に貢献してしまう可能性もある。そうなれば企業としては特別な育成プログラムを組まず、研修は程々にして業務を通した成長を期待するのは頷けます。
まとめ
今回は企業は誰に対してどのような能力開発を行っていて、その中でどのような問題を抱えているのかという内容を取り扱いました。まとめると…
・OJT、OFF-JT共に新入社員に対して行う比率が高く、中堅社員、管理職社員と年次が上がるにつれて計画的な能力開発を行う割合は低下していく。いずれも非正社員に対して行う比率は低く、正社員と非正社員の能力開発の機会に格差があるといえる。
・能力開発の内容に関しては、階級が上がる際の研修(学生→新人、新人→中堅、中堅→管理)の他、マネジメント能力やコミュニケーションスキルなど集団として成果を高めるための能力開発が多い。一方で「職種に特有のスキル」や「課題解決スキル」につながるものは多くなく、普段の業務の中で培う(OJT)べきものであるという意識が強いと考えられる。
・能力開発において企業が抱える問題としては「指導する人材が不足している」、「人材育成しても辞めてしまう」、「人材育成を行う時間がない」などがある。リソース(人・時間・金)の不足と育成効果の不確実性が大きく、業務時間を割いてまで実施する必要性が感じられない企業が多い。
次回は自己啓発に対する企業の姿勢をまとめます。
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