前回は人手不足なのに何故賃金が上がらないのかというテーマを取り上げました。
優秀な政治家・学者・官僚ですら有効な解決策を打ち出せていない訳ですから、私が少し考えたくらいで解決策を見いだせるはずはありませんが、今回は解決の方向性だけでも考えてみたいと思います。
前回紹介した書籍のようにアカデミック性は高くはありませんが、ご一読いただければと思います。
解決策は次の分野に分けて考えていきます。
- 企業の経営戦略・ガバナンス
- 教育
- 機械化・働き方改革
- 労働市場
- 人口構成
- 労働・資産形成
その中でも今回は企業の経営戦略・ガバナンスについて問題点を整理します。
企業の経営戦略・ガバナンスについて
日本の企業の多くは株式会社に分類されます。株式会社の所有者は株主であり最高意思決定機関は株主総会となります。この株式会社の歴史は古く、日本に導入されたのは法律上の違いで所説ありますが第一国立銀行(1872年)や日本郵船(1893年)と言われています。つまり100年以上の歴史があるわけです。高度経済成長期に世界を席巻した日本企業の多くもこの形態をとっています。
ただその会社の保有者ともいえる株主の構成は大きく変わりつつあります。
目に見えてわかる通り、銀行・保険等の金融部門の保有率が減り、外国法人の保有比率が上昇していることが分かります。会社の保有者が変われば当然会社の方針が変わることになります。外資系の保有比率が高まるにつれて、株式の保有期間が短くなったため、日本企業はより短期的に利益を出す必要に迫られるようになりました。
昨今のニュースを見れば、将来に向けた長期的な利益よりも短期的な利益を重視するような戦略をとる企業が多いことが分かるでしょう。(例えば、今利益を出すために成長産業の事業を売るなど)一見愚かな判断のように思えますが、経営者を責めることはできません。彼らは短期的に利益を出すことができなければ、株主からの信用が得られなくなり、職を失うことになるのです。(解任)
短期的な利益のために成長事業の売却が行われると将来的な利益の源泉(金のなる木)を失うこととなり、利益が減れば当然社員の給与を上げることなどできません。
また短期的な利益を出すにあたってコストの削減は必須になります。なぜなら利益を短期的に出すには常に不確実性を伴いますが、コストはコントローラブルなので計画通りに削減することができます。このため正規社員のポジションを非正規社員に転換したり、賞与を抑制したり、場合によってはリストラクチャが行われます。
更に労働者の決まって支給する給与(定期給与)は一度上げると下げにくい傾向があります。
プロスペクト理論というものがかかわっていて、『人は手に入れること(利得)より、失う(損失)ことを過大に評価しがちで、そのため最適解を求めるよりも、損失を回避するための行動をとりやすい。』というものです。そのため労働者は定期給与が下げられることに著しく拒否反応を示すので、企業は業績が下がったとしても定期給与を下げることは難しいのです。一度定期給与を上げると下げることはできず、将来に渡って基礎的なコストを増やしてしまうことになります。短期的に利益を出したい企業は定期給与を上げるという選択をしにくいのです。プロスペクト理論は以下のサイトで簡潔に示されています。
今回は企業の経営戦略・ガバナンスの面から給与が上がりにくい原因を整理しました。
次回は簡潔で不完全なものではありますが解決の糸口を探ります。
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